■■■ドーピング
@ドーピング問題
2015年12月衝撃的なニュースが飛び込んできました。
世界大会でも上位入賞をした日本のトップ選手が6月の大会のドーピング検査で陽性になり、賞のはく奪と4年間の
出場停止処分を課せられたのです。
過去にもパワーリフティング競技ではドーピングで陽性になった選手が数多くおり、競技人口の割合からすると
他のアマチュアスポーツに比べ群を抜いて多いことが問題になっております。
「ドーピング検査は全日本・世界大会のみで行われているため県大会出場者には関係ない」
「自分は薬物もやらないし、日ごろ飲んでいる薬にも注意しているから問題ない」
と思う選手も多いかと思いますが、実はパワーリフティング競技ならではのさまざまな問題点もあり、「ドーピング禁止」
と叫ぶだけでは解決できない問題が隠されています。
長い文章になりますが、パワーリフティング競技の置かれている立場を理解して頂き、この問題を考えて頂ければ
幸いです。
Aパワーリフティング協会声明
今回の件に関する日本パワーリフティング協会の声明は以下の通りです。
ドーピングに関する公益社団法人
日本パワーリフティング協会声明
今般、登録選手であるA選手(25歳)について、2015年6月28日
(第44回全日本男子パワーリフティング選手権大会)実施の競技会検査で禁止薬物
ドロスタノロンが検出された事実により、日本アンチ・ドーピン機構による規律パネル
決定がなされました。
同決定はA選手に対する処分のみならず、当協会における重大な責任を指摘された
ものと受けとめ、誠に遺憾に存じます。当協会の登録選手がスポーツ界全般の信頼性を
損なう事態を引き起こしたことに対し、お詫びを申し上げます。
A選手は2014年世界パワーリフティング選手権大会に於いて男子66kg級で2位になる
などその将来を有望視されていた選手ですが、競技者は、高度のスポーツマンシップを
もって活動し、パワーリフティング競技の健全な発展に協力しなければなりません。
当協会は、A選手について、前記大会の66s級1位の順位及び記録の抹消、メダル、
賞状、文部科学大臣杯等の返還、当協会選手登録の抹消、2015年7月30日より4年間の
選手登録の不許可・国内外の全てのパワーリフティング競技会(ベンチプレス競技会を
含む)に選手として参加すること及び参加の申し込みの禁止・当協会の公認競技会への
運営参加、協力、補助セコンドを含む選手支援等一切の禁止等々の処分をいたしました。
また、当協会は、組織として、国民の体力の向上と心身の健全な発達に寄与することを
目的としており、日頃からアンチ・ドーピング活動に力を注いでおりました。しかし、残念
ながら前記違反事例を防止できませんでした。当協会は、かかる事実を厳粛に受け止め
所属クラブ、単位協会、アンチ・ドーピング関連担当者らを含む協会組織全体における
責任の所在を明確にすべく検証し、追って、当協会ホームページでも公開してまいります。
今後、再びこのような違反が行われないよう協会としてより徹底したドーピング防止策の
策定や運用の改善に真摯に取り組み、実施いたします。特に、アンチ・ドーピング教育
については、そのあり方を根本から考え直し、実効性ある体制の整備を早急に進めて
まいります。全力を挙げて、アンチ・ドーピングに取り組んでまいります。
以
上
平成27年12 月11 日
公益社団法人 日本パワーリフティング協会
会長
宮本英尚
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※補足しますと、過去の日本人選手のドーピング違反については、咳止めなど市販薬に含まれていた
成分が検出されたケース、過去に禁止薬物でなかったものが新たに禁止薬物となり、それを知らずに
使用したために検出されたケースなど過失によるものがほとんどでしたが、今回の件については、
検出薬物が筋肉増強剤であること、A選手が医学部の学生であり薬物の知識が充分にあったこと
などから協会や選手からも厳しい意見が出ています。
BIPFとWPC
パワーリフティングの宮城県大会や全日本大会、世界大会はすべて現在IPF(国際パワーリフティング連盟)
という組織が統括しており、ルール改定や記録認定さらにはドーピング検査も行っております。
国内大会はIPFに所属するJPA(日本パワーリフティング協会)が運営しており、ドーピング検査も極めて厳しい
ルールで行われております。
しかし、パワーリフティングにはIPFとは別にWPCという団体が存在しております。
WPCはIPFとは違い、ドーピング検査をせず、ルールもゆるく、コスチュームも自由な「何でもあり」の団体です。
IPFのルールの厳しさに嫌気がさした選手や、ドーピングで資格停止になった選手、薬物を使ってでも重い重量を
持ち上げたい選手などが集まり大会が行われております。
事実WPCの記録はIPFの記録を大幅に上回るため、観客を喜ばせるショー的要素は大きくなりますが、ムリな
コスチュームによる重大事故や薬物の副作用による健康被害などが報告されています。
IPFではWPCに出場した選手の出場を認めていないため、両団体は全く相反するものなのですが、一般の人から
見れば同じパワーリフティング競技にしか見えません。
なおJPA(日本パワーリフティング協会)「フェアプレイ委員会」では、IPFならびにJPAが認めていない大会への
出場者には厳しい対処をする方針を打ち出しており、実際にWPCに出場した元日本チャンピオンにも厳しい
処分が下されています。
詳しくはこちらからご覧ください。
いくらIPF、JPAがアンチ・ドーピングに力を注いでも、薬物OKの団体があるということで、パワーリフティング
競技者に薬物使用の疑惑がかかることは避けられません。
それではなぜIPFは薬物OKのWPCをやめさせることはできないのでしょうか?
Cボディビルと薬物
パワーリフティングはウエイトリフティングとは違い、ジムでよく行われているトレーニング種目である
スクワット・ベンチプレス・デッドリフトという三種目で競い合います。
ジムではボディビル競技を行っている人も多数トレーニングしています。
当然ボディビルとパワーリフティングを両方行う選手もおります。
ところがこのボディビル競技も大きな薬物問題を抱えているのです。
現在世界で一番有名なボディビル大会である「ミスター・オリンピア」は表向きはドーピング検査を行っていることに
なっていますが、実際は全く実施されていないと言われています。
それはありえないほど巨大な筋肉を付けた選手たちが今までに誰もドーピング検査で陽性になっていないこと
からも明らかです。
過去に本当にドーピング検査を実施しようとしたところ、検査を恐れて出場する選手が激減したそうです。
「ミスター・オリンピア」はもはやボディビルコンテストではなく、驚くほど巨大な筋肉を見に来る観客のための
ショーなのです。
さらにミスター・オリンピアはプロの大会なので、勝てば賞金や広告などで巨額の収入を得られるために、健康被害
には目をつぶり、ほとんどの選手が筋肉増強剤などの薬物を使用していると言われています。
しかし、一方アマチュアの大会である「ミスター・ユニバース」や日本国内の「ミスター日本」などのボディビル大会
では厳格なドーピング検査が行われているために、薬物なしの潔白な大会なのですが、ミスター・オリンピアに
比べると筋肉量が劣るのは明らかですし、観客も少なく、アマチュアのため賞金も出ません。
筋肉を見たい観客は薬物を使っている大会を好んで見に行き、興業としてミスター・オリンピアは大成功を収めて
いるため誰も薬物禁止を言い出せません。
また筋肉増強剤は麻薬などと違って法的に違法ではないために、ルール上OKであれば誰も異議を申し立て
られません。
IPFがWPCをやめさせることができないのも同じような理由だと考えられます。
Dその他のスポーツと薬物
ボディビルと同様にショー的要因が強い「プロレス」も薬物汚染が深刻です。
ドーピングが行われないためにプロレス選手の多くが薬物を使用していると言われており、それにより死亡
・引退した選手が多数いると言われています。
しかしこれも興業的にドーピング検査ができない状況に陥っており、選手の健康被害が懸念されています。
これに対し同じプロスポーツでもプロ野球やJリーグではドーピング検査が行われており、実際陽性となり処分を
受けた選手もいます。しかしアマチュアと違い職業としてスポーツを行っているため、陽性になった場合のリスク
が大きいこと、シーズンが長く、故障による治療には多数の薬物を使うことなど難しい面もあるようです。
一方オリンピックを含むアマチュア競技ではドーピング検査は浸透しており、罰則も厳格です。
オリンピックでドーピング陽性選手の失格のために順位が繰り上げられることはよくあることです。
最近国際オリンピック委員会はロシアの陸上競技選手ならびにコーチが組織的に薬物を使用しているとして
2016年のオリンピック出場を認めないという判断を下しています。
E巧妙化するドーピング
これほど「アンチドーピング」が浸透しても、メダルのためならドーピングしても構わないと思う選手が多い事実。
そして闇の勢力がそういう選手に忍び寄っている事実。さらに検出できない薬物とそれを検出する技術の
いたちごっこ。
少し古いですがNHKの「クローズアップ現代」で実際に薬物を使っていた選手のインタビューを交え
現在のドーピング問題について考えています。
そのサイト版をぜひご覧ください。→NHKクローズアップ現代「見えないドーピング」
Fアンチドーピング機構
競技者としてアンチドーピングの知識は必須です。
さらに禁止薬物は毎年更新されているので、常に最新の情報を知ることも大事です。
日本アンチドーピング機構のHPに詳しく載っているのでご覧ください。
競技者としての知識は「アスリートサイト」に載っています。
Gアンチ・ドーピング講習
現在、全日本以上の大会では「アンチドーピング講習」を受けていない選手は出場できません。
なので「知らなかった」は通用しないルールになっています。
2016年までは履修レポートやWEBでの講習で認められていましたが、2017年度からは無効になり
各全国大会などで行われている「アンチドーピング講習」を受講しないと全国大会には出場
できなくなりました。アンチドーピングに関する制度は頻繁に変わるので日本パワーリフティング協会
のHPを確認してください。
Hまとめ
パワーリフティングには薬物OKの団体があるという事実、同じトレーニングをするボディビル競技にも
一部で薬物が蔓延している事実をふまえ、ただでさえ我々は薬物使用の疑いをかけられやすい立場に
あるということを認識し、「県大会だから考えなくていい」「自分さえしなければいい」ということ
ではなく競技全体の発展と偏見の払拭のためにもドーピング問題に注意を払う必要があるのでは
ないでしょうか。
しかし一方、似たような競技のウエイトリフティングが薬物禁止に力を入れ、オリンピック競技に
留まっていることを考えると、パワーリフティングもクリーンなイメージづくりがきっとできると
信じております。
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